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梅雨に思う

こんな風に梅雨らしい空を見上げるとあの日のことを思い出す・・・

《5年前の梅雨空の日》

私は、人と深く関らず、荒れた生活を送っていた。
食事もろくにとらず、夕食は近所のバーで酒を数杯あおるのが日課だった。
大雨で帰るのがめんどくさいという理由で一人で飲みすぎたある日。
店を出た所に座り込んでいる自分に声をかけてくれたのが
今の上司のT部長だった。

見知らぬBARで目を覚ました。
バーテンが閉店の片付けをしながら「大丈夫ですか」と
大して興味なさそうに声をかけた。

また記憶が曖昧だった。
「・・・・お前には見込みが・・・」
「・・・・でも連絡を・・・・・わかったな」
微かな記憶でポケットを探るとT部長の名刺が入っていた。

バーテンが黙ってミネラルウォーターのボトルを置いたので
T部長の事を聞いたが「私はよく分からない」とそっけない答え。

その日の記憶も曖昧だったが、それ以上昔の記憶は更に曖昧だった。
荒んだ生活を始めたあの日、病院で目を覚ました大雨のあの日以前の記憶が
私には無かった。

そんなきっかけでこの会社で働くようになった私は、T部長と
PC修理のプロに囲まれて、少しずつまともな生活が送れるようになっていた。

PCの修理は楽しかったし飲み込みも早かった。
数ヶ月で修理セクションを任されるようになった。

そしてまた大雨のある日、T部長に声をかけられた。
「ずいぶん仕事にも会社にも慣れたようだな」
みんなのおかげですと答えたしそう思っていた。
「そろそろサービスエンジニアとして外に出てみるか」
いつからですかと聞くと
「PCが起動しないでお困りのお客様がいらっしゃる」
「今から行って来い、お前ならもう大丈夫だ」

外に出る人間には、PCに対する幅広い知識だけではなく
現地で修理を完了させるための応用力やお客様の要望をお聞きする
コミュニケーション能力など専門性だけではない総合力が求められる。

経験を積み、試験にパスした優秀なものでなければ外に出れない。
そんな役割を与えられ生まれて初めて人に認められるという事の意味を知った。

お客様のマンションまで到着した私は、濡れたカバンをタオルで拭きながら呼吸を整える。
お客様の住所とお名前を確認して、もう一度深呼吸してから部屋番号をダイヤルし
インターフォンを押した。

「パソコンサポートのギブアンドギブン、Oと申します」
「パソコンのトラブルの件でお伺いさせて頂きました」

そう伝えるとオートロックの自動ドアが静かに開いた。


「お待ちしてました、どうぞ」
「主人のパソコンなので私はよく分からないの」
出迎えて頂いた奥様が明るい笑顔でそういってくれたので少しリラックスできた。

玄関で靴をそろえながら下駄箱の上に並んだ家族の写真。
急にめまいがした。
廊下を案内されながら奥様は
「・・・私のパソコンは全然大丈夫なのに、・・・使い方・・」
言葉が耳に入ってこない。

廊下の壁にはご主人がデジカメで取ったであろう運動会の写真が飾られている。

・・A3ノビ・・・・
赤の発色とハイライトが・・・
・・染料系・・・
めまいがひどくなり頭に型番のようなものが思い浮かぶ。
・・・Pro9000・・・・・D50・・・60mm/F2.8D・・・

何とか気持ちを落ち着ける。
「主人のパソコンなんですけど昨日からまったく起動しなくなったんです」

「前触れもなく突然ですか?」
そう聞きながらも、まためまいがする。

パソコンの型番が目に入る。
頭にはパソコンの分解方法と基盤の状態が思い浮かぶ。

「ご利用規約の書類にサインをお願いします」

・・・CPU横の6.3v 1000μF 3本・・・

「じゃ、お願いしますね」

・・・後2本の同型のコンデンサも液漏れはしていないが劣化している・・・

「畏まりまり・・・」

頭に浮かぶ言葉を無視するかのように私は、書類に必要事項を記入している。

途切れる記憶。


気が付いたときパソコンは起動していた。

足元には取り外されたコンデンサーが転がっている。

5分で分解から組み立てまで、すべての作業を終えていた。

自分はいったい何者なのか、私の過去とは・・・


蒼白な顔で事務所に戻った時、T部長はすでに全てを承知しているようだった。

レベルSのセキュリティルームに通された。

中にはA社長が待っていた。

そして静かに話し始めた。

「5年前、お前は我が社K支店を任されるトップサポーターだった」

「そしてある日、お前が直してしまったパソコンにはある国家の存亡に関る極秘データが入っていた・・・」



づづく?

つづきません。

そしてフィクションです。

雨降りの移動中に思いついたお話にお付き合いいただきまして
誠にありがとう御座います。
お楽しみいただけましたでしょうか?

晴耕雨パソコン。
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